1 .はじめに アルミニウムは,一般的に比重 4.5 のチタンより軽い金属 と定義される軽金属種の中で最も使用量が多い代表的な軽金 属である。しかし,自然界ではケイ素に次ぐ存在量であるに もかかわらず,アルミニウムの実用化の歴史は,銅の 7000 年, 鉄の 4000 年に比べると非常に若く,わずかに約 130 年たら ずの歴史である。その理由はよく知られるように,アルミニ ウムが酸素と非常に結合力が強く金属としての単離が容易で なかったためである。アルミニウムの実用化は,アルミニウ ムを命名したハンフリー・デービィー,さらにはエルステッ ド,ウェーラーなどの努力を経て,1886 年のホール・エルー 法による電解製錬法の出現を待たねばならなかった。 さて,このようにして得られるようになったアルミニウム は表面に数ナノメートルからそれ以上の厚さの自然酸化膜を 有するため,本来は電気化学的には卑な金属であるにもかか わらず比較的良好な耐食性を示す。事実,アルミニウムの自 然酸化膜を強化して利用する試みについての文献発行や特許 出願が各々 1857 年と 1898 年に実施されている , 。しかし, このようなアルミニウムの自然酸化膜は,膜厚が十分ではな いこと,および電荷ゼロ点 (Point of Zero Charge) や等電点 (Isoelectric Point ; IEP) ,さらにイオン選択性 (Ion Selectivity) などの観点からすると中性 pH 領域においてアニオン透過性 であり,塩化物イオンなどのアニオンを優先的に透過させる ために必ずしも実用に耐えうるような耐食性を発現し得な い 。そこで Bauer と Vogel は,1915 年に現在のアルミニ ウムの化成処理の原型となる化学的酸化処理法を提案してい る 。本稿では,上記のような発端を有するアルミニウムの 化成処理技術の変遷について述べ,さらには今後の新たなア ルミニウムの表面処理技術の動向についても述べる。ただし, 陽極酸化処理については,強制的な電解反応を利用した処理 法であり,本稿での化学的反応を利用した化成処理には属さ ないものとする。 2 .これまでのアルミニウムの化成処理法 これまでのアルミニウムの化成処理は,上述した化学的酸 化処理法を発端に,リン酸クロメート処理法,クロム酸クロ メート処理法,リン酸亜鉛処理法などがある。表 1 にこれら の処理方法についてまとめた。なお,表 1 の作成にあたって は穴田の作成した表を参考にした 。ここで述べる処理法の 中で,ベーマイト処理をのぞく化学的酸化処理法,リン酸ク ロメート処理法,クロム酸クロメート処理法,3 価クロム処 理法についてはクロムを含有する処理方法であるが,それ以 外はクロムをまったく含有しないクロムフリー処理法である。 以下,詳細にこれらの処理方法について述べる。 2.1 化学的酸化処理法 (Chemical Oxidation Process) 化学的酸化処理法として最もシンプルで代表的な方法が ベーマイト処理である。ベーマイト処理の実用化がいつ頃か ら実施されたかについては定かではないが,ベーマイトの酸 化物としての存在についてはかなり古くから知られてい た , 。ベーマイト処理は,純水や加圧水蒸気で高温・長時 間処理をすることでアルミニウムの表面に酸化膜を成長させ る方法である。アンモニアを添加することで酸化膜の成長速 度が促進され短時間化が可能である (表 1 参照) 。また,ベー マイト処理は実際には陽極酸化処理との併用で使用されてい たこともある。国内では,電解コンデンサーや一部の熱交換 器,さらにはプレコートフィン材の親水化下地処理に使用さ れている 。 一方,表 1 の化学的酸化処理法の中で比較的有名であり古 くから実施された方法が,アルカリクロム酸塩処理と呼ばれ る MBV 法,EW 法,Pylumin 法などである 。これらの 方法は,いずれもアルカリ金属炭酸塩とクロム酸ナトリウム を含んだ水溶液中にて高温で処理をして,アルミニウム表面 にクロム酸化物とアルミニウム酸化物を形成させて耐食性を 得る方法である。簡単な化学式で表せば下記の式 (1) ように なる。 2Al + 2Na CrO → Al O + 2Na O + Cr O ………(1) 図 1 にはアルミニウムに各種化学的酸化処理して作製した アルミニウムの化成処理技術の変遷と動向 島 倉 俊 明 a a 日本ペイント㈱ サーフ事業部 機能材料技術部 (〒 140-8675 東京都品川区南品川 4-1-15)