重症頭部外傷後に小児特発性高インスリン血症性低血糖症を来した1例(A case of persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy associated with severe brain injury)

Abstract

要旨高インスリン血症性低血糖症は，その多くが新生児期から小児期にかけて発症する疾患である。我々は，重症頭部外傷後に特発性の小児持続性高インスリン血症性低血糖症を来した症例を経験したので報告する。症例は1歳6か月の女児。集合住宅の窓より誤って転落し，約8m下のアスファルトの地面に頭部を打撲し，当施設へ搬送された。頭部CT所見で右硬膜下血腫を認め，搬入当日に緊急開頭血腫除去術を施行した。患児は第21病日より治療抵抗性の低血糖を呈するようになり，大量のブドウ糖持続静注を必要とし，十分なホルモン補充療法でも血糖値は改善しなかった。精査により高インスリン血症を認めたため，膵β細胞からのインスリン分泌を抑制するDiazoxideを投与したが，十分な効果が得られず，全ての膵ホルモン分泌を抑制するOctreotide皮下注に変更した。変更後は速やかに血糖値は上昇し，その後も安定した。先天性代謝異常を除外するためにタンデムマススクリーニングを，また高インスリン血症性低血糖症の原因検索のために遺伝子検査を行ったが，どちらも有意な所見は得られなかった。患児は第108病日に小児科へ転科し，最終的に装具歩行および二語文会話程度にまで回復し退院した。持続性高インスリン血症性低血糖症は遺伝子異常に起因するものが多い。しかし，本症例のように頭部外傷後のストレスが誘引となって発症したと考えられる場合もあるため，治療抵抗性の高度な低血糖症を認めた際には早期に本疾患を疑い，診断および治療を進める必要がある。