外傷学会分類Ia型骨盤骨折に直腸・膀胱損傷を合併した1例(The case of rectal and bladder injury associated with a Ia type pelvic fracture)

Abstract

要旨安定型骨盤骨折（外傷分類Ia型）に直腸・膀胱損傷を合併した1例を経験した。症例は71歳の女性。バイク事故による骨盤骨折で血尿を認め，尿路損傷が疑われたため他院から転院搬送となった。当院到着時バイタルサインは安定し，右恥骨部に圧痛を認めたが会陰部に裂傷はなく，直腸指診では異常を認めなかった。腹部造影CTで右恥坐骨・仙骨骨折・骨盤部後腹膜腔に液体貯留を認めたが，造影剤の血管外漏出はなく保存的加療となった。第2病日，受傷32時間後に血圧低下を認めたが，CT再検で骨盤周囲の血腫増大はなく，直腸周囲の遊離ガス像も認めなかった。輸液療法，輸血療法を行ったがバイタルサインは不安定で，第3病日に直腸損傷による敗血症性ショックを疑い，大腸内視鏡検査を施行した。肛門縁から7cmの部位に約1cmの裂傷を認め，直腸損傷による後腹膜膿瘍と診断し緊急手術を施行した。損傷部直腸を切除し，Retzius腔，後腹膜腔を剥離したが，術前膀胱造影でリークを認めた膀胱損傷部は確認できず，全身状態も不安定であったため，人工肛門造設術・洗浄ドレナージを行い手術を終了した。術後は軽快傾向であったが尿溢流があり，第23病日に膀胱修復術，第48病日に尿管皮膚瘻を造設した。術後経過は良好で第78病日に軽快退院となった。本症例のように安定型骨盤骨折においても直腸損傷の合併を念頭に置き，後腹膜腔に液体貯留など異常所見を認めれば，大腸内視鏡などで損傷の有無を確認することが重要と考える。