両側淡蒼球病変を伴う遅発性低酸素脳症を来した腸間膜損傷による出血性ショックの1例(A case of hemorrhagic shock due to mesenteric injury resulting in delayed hypoxic ischemic encephalopathy with bilateral symmetrical pallidal lesions)

Abstract

要旨症例は63歳の男性で，自動車運転中の衝突事故にて受傷し当院救急搬送された。病院到着時には四肢末梢の冷汗湿潤がみられ，初療経過中に血圧が低下しショックの進行を認めた。造影CT検査では腹腔内出血を認め，緊急開腹にて止血術を行った。初療時および術直後にも意識障害を疑う所見は認めなかったが，第3病日以降で鎮静終了にもかかわらず覚醒は得られず，意識障害と上肢の痙攣が出現した。持続鎮静で痙攣は頓挫したが，その後も意識障害が遷延しており，第6病日に非鎮静下に施行した脳波検査では，てんかん重積所見を認めた。また頭部MRI検査ではFLAIRで両側淡蒼球に高信号像を認めており，低酸素脳症に伴う症候性てんかんと考えられた。術後経過中に重篤な酸素化低下や循環不全は認めておらず，出血性ショックによる低酸素脳症と考えられた。抗てんかん薬投与によりてんかん重積と意識障害の改善を認めた。稀ではあるが，出血性ショック後には遅発性に低酸素脳症を来すことがあり，原因不明の意識障害を認めた際にはその病態を念頭においた治療戦略が必要であると考えられた。