本研究は,多様な価値観を踏まえたまちづくり,社会資本整備を目指し,新たな潮流 である地方部を志向する人の価値観の調査と分析を行った.研究では,地方部への移住者 に着目し,福島県小野町,鳥取県日南町,鹿児島県垂水市をケーススタディ市・町として, 移住者を対象に調査を行い,国民生活選好度調査と比較することで分析した. その結果,本調査における移住者の価値観の特徴として,移住に際し,移住者は職の 有無ややりがいを重視しており,また,休暇と余暇も充実した環境を求めていること,移 住先の検討においては,より条件の合う環境や住居を求めているとともに,地域での人付 き合いがうまくいくか不安を感じていること,移住後の生活の中で,家族や生活環境など の日常をとりまく環境や,地域の中での人間関係を重視していることなどが分かった.今 後,地方部への移住を移住者の視点から考えるならば,身近にやりがいのある職場がある こと,良質な生活環境であること,地域における周囲との良好な関係を形成することが望 まれる.また,地方部の地域づくりの視点から,移住者が移住しやすいまちを考えるなら ば,移住者が移住を検討しているときに重視する生活環境,地域生活に関する情報提供を 充実させることが有効と考えられる.同時に,移住者が移住後も住みやすい地域づくりを 考えることが必要であり,そのためには,生活環境を保持しつつ,移住者に開かれた地域 生活環境の提供が重要と考えられる. 【キーワード】満足度評価,意識調査,移住 *1 総合技術政策研究センター建設経済研究室,029-864-0932,oohashi-s92ta@nilim.go.jp *2 技術推進本部技術開発部,03-5906-0126 *3 総合事業本部社会計画部,03-5906-0528 1. はじめに (1) 目的 国民生活の視点から,多様な価値観が認められる 社会が望まれている. 平成 17 年に改正された国土形成計画法に基づき平 成 20 年 7 月に閣議決定された国土形成計画 1) の中で も,時代の潮流と国土政策上の課題として,国民の 価値観の変化・多様化について述べられている.そ こでは,「ゆとりや安らぎ,さらには心の豊かさに 関する国民意識の高まりの中,美しい景観や文化芸 術等に対する欲求がこれまで以上に強まっている」 ことを挙げたうえで,「価値観の多様化,生涯可処 分時間の増加等にともない多様なライフスタイルの 選択が可能になってきている.これにより,テレワ ークなど働き方の多様化,大都市居住者の地方圏・ 農山漁村への居住など住まい方の多様化の動きなど がみられる」とし,「国土政策の観点からは,適切 なコストや負担を前提に自ら決めるという自律の精 神と,地域の違いによる制約を少なくするための多 様な交流を重視しつつ,多様な働き方,住まい方, I_47